紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

スリランカの紅茶は何故セミオーソドックスなのか?

      2026/04/19

スリランカの紅茶はセミオーソドックス製法と呼ばれるローリングマシンに加えてロータバンと呼ばれる挽肉機のような機械によって茶葉をねじ切って製茶する製法が主流です。
このセミオーソドックス製法という名称は一般的ではなく、統計上はオーソドックス製法に含まれますが、ローリングマシンだけで製茶するダージリン式のオーソドックス製法と区別するため、ここではセミオーソドックス製法と呼びます。
日本人に一番なじみのある紅茶の茶葉の形状と言えば、このセミオーソドックス製法の千切れたような茶葉ではないでしょうか?
でも、実はこの形状の茶葉は非常に生産量の少ない茶葉なのです。
世界で最もポピュラーなのは、リンアンで言えば アッサム908 のようなCTC製法による顆粒状の茶葉です。
CTCの茶葉をお見せすると、「えっ?こんな紅茶も有るんですか?」と驚かれることが多いCTC製法の茶葉が世界の8割近くを占めています。
でも、日本ではあまり見かけませんよね。
世界の紅茶生産量が一番多いのはインドで、その半分をアッサムが占めています。
そのアッサム紅茶のほとんどはCTC製法で製茶され、そのまた多くはインド国内でチャイ需要として消費されます。
次に多いのがケニアで、これもまたその殆どはCTC製法で製茶され、主にヨーロッパのティーバッグ需要に出荷されます。
という事で、世界の主要生産地では、日本であまり見かけないCTC製法の紅茶が多いのです。
日本に輸入される紅茶では一番多いのがスリランカ産の紅茶ですので、この千切れた茶葉が日本人に一番馴染みの多い紅茶の茶葉の形状となっています。

でも、よく考えてみると、世界の紅茶生産地で、このセミオーソドックス製法を主として生産している国はスリランカ以外には有りません。
世界の紅茶生産のほとんどがCTCで、茶葉の形状が残るオーソドックス製法を取っているのはダージリンだけ。(ダージリンはオーソドックス製法に拘って生産しています。)

何故スリランカは世界で他に類を見ないセミオーソドックス製法で生産しているのでしょうか?

先日、スリランカ大使館の紅茶のレセプションが有り参加してきました。
そこで質疑応答の時間が有りましたのでこの疑問を聞いてみました。「スリランカの製法は1957年に開発されたロータバンによるセミオーソドックス製法で製茶されますが、この製法はスリランカ独特なのですが、何故スリランカはこの製法を取っているのでしょうか?」
その答えはこんな感じでした。
「1950年代にロータバンが開発されましたが、その頃からティーバッグ需要が多くなり、細かい茶葉の生産をする必要が出てきたためにロータバンによるセミオーソドックス製法を使っています。」
なるほど!と思いましたが、では何故もっとティーバッグに適したCTC製法に移行しなかったのでしょうか?
実はCTCマシンはロータバンより早く、1931年に開発されているのです。
ロータバンはそのCTCマシンの前処理用として開発された製茶機なのです。
だったら、セミオーソドックス製法では無く、CTC製法に移行した方が理にかなっています。

その答えは私の次に質問した日本紅茶協会の秋葉専務理事の質問の答えに有りました。
秋葉専務理事は「今後スリランカの紅茶生産量はどうなっていくのでしょうか?」と質問されましたが、スリランカ側の回答はこんな感じでした。
「生産量を増やすとどうしても品質が落ちてしまいます。スリランカは品質を維持したい。ですから生産量は変わらないでしょう。」
製法毎の価格を見てみると、CTC製法の紅茶の単価が一番低く、オーソドックス製法の紅茶の生産が一番高く、セミオーソドックス製法の紅茶の価格はその中間となっています。
ここに、国際連合食糧農業機関(FAO)のデータベースから取り出した紅茶の輸出のデータをグラフ化したものが有ります。
左が重量ベース(単位:トン)、右が金額ベース(単位:1000ドル)です。
中国は緑茶が多いのでちょっと別としてスリランカとケニアを見てみましょう。
輸出量はケニアの方が多いのですが、金額ベースでみるとスリランカの方が多くなっています。
つまり、量より輸出金額を多くすることを狙っているのがスリランカの紅茶産業だと言えます。
であればダージリンのようなオーソドックス製法の方がより高い価格を得られるのですが、ダージリンのような狭い産地ならともかく、たくさんの生産地を持つスリランカからだからこそ、生産量も金額も取れるセミオーソドックス製法に落ち着いたのだと思います。
そんなスリランカも更に高価格化を試行しているのか、最近は中国のような工芸茶や、手もみな紅茶などもFOODEXで見かけるようになってきました。
こういうお茶はまだまだだと思うのですが、スリランカの紅茶業界が高価格化を志向しているのが感じられるとともに、何故スリランカが世界でもまれなセミオーソドックス製法を取っているのかがなんとなく分かってきました。

 - 紅茶