ティーカップは温めるべきか?
ティーカップは温めるべきでしょうか?
紅茶教室で、「ティーカップを温めましょう。」と、習った方も多いんじゃないかと思います。
でも本当に、ティーカップを温めた方が良いのでしょうか?
実は、リンアンではティーカップを温めていません。
そのままお客様のところへお出ししています。
昔、お客様に、「どうしてこの店はティーカップを温めないのですか?」と聞かれたことが有ります。
逆に、「どうして紅茶の人達はあんなに熱い紅茶を出すのですか?ワインの世界では美味しい温度にして出すのが当たり前なのに、紅茶の人は熱くて飲めないような紅茶を出します。」と言われたことが有ります。
さて、どちらが正しいのでしょうか?
もちろん、美味しく飲める温度でお出しするのが本当です。
紅茶が美味しく飲める温度は、60~70℃ くらいです。
ワイン好きな方には、「美味しく飲める温度と、美味しく淹れれる温度は違います。」「その淹れたてをお出ししているので熱いのです。」と、お話して納得していただきました。
ティーカップを温める習慣はイギリスから来ているのですが、そのイギリスでも、現在はティーカップを温める習慣はほぼ無くなっています。
現在は、ティーカップを温めないのです。
まず、基本的にカップを温めるのはお店の仕事では無く、マザーの仕事です。
マザーについてはこちらをご覧ください。
ティーパーティー(基本的にアフタヌーンティーはティーパーティーです)で、お客様の中にはミルクティー好きな人もいればストレート好きな人もいます。
そしてミルクは常温です。
そのミルクを入れて、温度が下がり過ぎればティーカップは当然温めなければなりません。
ティーカップを温めるか、温めないかは、その状況によって違うのです。
それを判断できるのは、マザーしかいませんから、ティーカップを温めるのはマザーの仕事なのです。
まず、これを間違えてはいけません。
ティーカップを温めるのはお店の仕事では無く、マザーの仕事なのです。
ま、それは置いておいて、お客様の好みや紅茶の温度、気温、ミルクの温度等を総合的に判断してティーカップを温めるとしたら、温めたお湯はどこに捨てるのでしょう?
茶の湯では、「建水」というお湯を捨てる道具が有ります。
煎茶道では、「こぼし」と言う事も有ります。
ティーカップを温めるためには、こういうお湯を捨てる道具が必ず必要になってくるのです。
実は、かってはティーセットの中にこの「建水」「こぼし」に相当する道具が有ったのです。
SLOP BASIN:スロップベイスン とか、WASTE BOWL:ウェイストボウル と呼ばれます。
上の画像の金属の鉢がそれです。
脚付きのこの形は珍しいかもしれません。
様々な形の物が有りますが、かってはティーセットの中には必ずこの、SLOP BASIN、WASTE BOWL が有ったのです。
しかし、19世紀中ごろからこのSLOP BASIN、WASTE BOWL はティーセットの中から消え始め、20世紀初頭には、ほぼ消え去ります。
ティーカップを温めるのに必須の道具がティーセットから消えた。
これはティーカップを温めなくなったという証拠では無いでしょうか?
何故? ティーセットの中からSLOP BASIN、WASTE BOWL が消えたのでしょう?
これは、私の仮定であり、推測であり、紅茶界で広く認識されている意見では有りませんので、そのつもりでお読みください。
それは、暖房の技術革新によって起こったのだと考えています。
19世紀半ば、鋳鉄製のボイラーが発明され、蒸気による暖房が始まります。
1890年には、蒸気エンジンを使った世界最初の石油火力発電所がロンドンに作られます。
そしてその使用済みの蒸気は町に供給され、町ごと暖房するセントラルヒーティングが発達していくのです。
時期的にSLOP BASIN、WASTE BOWL が消えた事と連動しているように思いませんか?
私が知る限り、私だけの考えなのですが、セントラルヒーティングが発達するにつれてティーカップを温める必要が無くなり、カップを温めるのに必要な道具がティーセットから消えて行ったと考えるのが正解の様な気がします。
どちらにしても、ティーカップを温めるのに必須の道具が無くなったという事は、基本的にイギリスでは、現在ティーカップを温める習慣が無い事を意味します。
盲目的にティーカップを温める事は止めましょう。
日本は必要な時に必要なところだけを温める局所暖房です。ですから、寒い朝などはティーカップも冷たくなっています。
そういう時は事前にカップを温めましょう。カップも温め、美味しい紅茶をお召し上がりください。
大事な事は、ティーカップを温める、温めないでは無く、美味しい紅茶を楽しむ事なんですから。