紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

国産紅茶グランプリ2016

   

ずいぶん時間が経ってしまいましたが、昨年10月に、紅茶フェスティバルで行われた国産紅茶グランプリに付いて書き残しておきたいと思います。
昨年の結果はここにあります。

国産紅茶グランプリ 2016 審査結果

結果的に、愛知県豊橋市のごとう製茶の後藤潤吏氏の紅茶が、一昨年に次いでのグランプリで、グランプリ2連覇となりました。

出来過ぎの、出来レースのような感じの結果ですが、このグランプリは基本的に消費者による人気投票に近く、主催者側の意図でどうこう出来る審査会では有りません。

申込数が111件。予選に届いた紅茶の数が102点。
この数を審査するのは正直、時間との闘いです。
付いているのはエントリーNo.だけで、そのナンバーが誰の紅茶が気にする余裕は全くなく、単に自分の好みに合っているか、有っていないか、普通か?を必死に採点表に書き込むしか有りません。

そんな予選を勝ち抜き、更に紅茶フェスティバル当日の決勝では、一般の審査員が100名加わるわけです。
結果を操作することは不可能です。

それでも、消費者の人気投票であるこの国産紅茶グランプリ。一昨年のグランプリ、準グランプリ受賞者は確実に上位に食い込んできました。
凄い実力と言わざるを得ません。

グランプリの愛知、豊橋・ごとう製茶の後藤さんは一昨年もグランプリ受賞。
準グランプリの沖縄、名護市・金川製茶の比嘉さんは一昨年に引き続き準グランプリ連覇。
もう一人、準グランプリの愛知、新城の鈴木製茶の鈴木さんは一昨年の銀賞から大きく順位を上げての準グランプリ。

この中で、ごとう製茶の後藤さんが何故グランプリ2連覇を達成できたかをお話ししておきたいと思います。

昨年の紅茶フェスティバルの紅茶シンポジウムは、実は、「国産紅茶の品質を向上させるために」と題して、一昨年のグランプリ、準グランプリ受賞者の方々に、その取り組みを話していただきました。

その中で、後藤さんの話がやはりひと際際立っていたのです。
彼の製茶方法から始まって、その取り組みが紹介されていたのですが、私が一番驚いたのは、彼はその製茶をほぼ毎日行っているのです。
それも詳しい製茶のデータを取りながら。
彼の製茶回数は、年に300回を超えます。

私が世界の茶園を回って感じたことは、ダージリンの気象条件はちょっと特別で、ダージリンのような条件の場所は日本に存在し無いものの、特段、日本の気象条件が世界の紅茶産地の気象条件に比べて劣っているとは感じられないのです。
どの紅茶産地を回っても、「日本に似ている。」としか思えません。

つまり、「条件的に日本で最高の紅茶が作れないはずがない。」というのが、私の結論でした。

しかし、どうやっても日本の産地が超えられないものが一つだけありました。

それは製茶経験です。

私達、紅茶関係者が茶園に行けば、基本的に茶園マネージャーが私達をもてなしてくれます。
マネージャーが不在の時にはアシスタントマネージャーが対応してくれるのです。

で、アシスタントマネージャーと製茶条件などに付いて話していると、それなりの知識を披露してくれます。
が「何年くらいここにいるの?」と聞くと、「2年」とか、「3年」と答えるのです。
「その前は?」と聞くと、全く別分野の会社からやって来ているのです。

「2~3年しか経験が無い若造がいっぱしの口ききやがって!」と心の中で思うのですが、彼らはプランテーションで生産しているため、1年に200~300回の製茶経験が出来るのです。
それに比べ、日本で紅茶生産をしている生産者は、年に数回です。
つまり、彼らは日本の紅茶生産者が一生かかって製茶する回数以上を2~3年で経験してしまうのです。
それも、そんな事を何十年と経験してきた老練な茶園マネージャーの元で。

これは日本の生産者がどれだけやっても超えられない壁だと思っていました。
そしてそれは日本人の研究と努力で超えるしかないと。
「それはいつか超えられるはずだ。」と信じて。

でも、後藤さんはそれを簡単に超えてしまったのです。
年に300回を超える製茶経験。
それを趣味のように毎日条件を変えて製茶する。
「こうしたらどんな味になるんだろう?」「えっ!そんなやり方があるの?」「って気になったらやりたくなるでしょう。」って、今までの常識に捕らわれずに自身の探求心でとにかく製茶してみる。

後藤さんの元には、そんな300を超える茶葉が有るのです。

後藤さんは昨年、一昨年と、ブレンドした紅茶でグランプリを受賞しています。
殆どの参加者が多くの製茶ロットの中で最高と思われるロットを仕上げたそのままで、ノンブレンドで出品してくるのに対して、後藤さんはブレンドで勝負してくるのです。
それは、最高の紅茶が製茶できなかったからではなく、後藤さんには作ろうと思う紅茶のイメージが明確に有るからに他なりません。
後藤さんには作りたい紅茶が明確に有り、そして手元に300を超える自作の紅茶が有る。
つまり、後藤さんは、自分の理想とする紅茶を、300を超える紅茶をブレンドする事により、ほぼ、自由に作り出せるわけです。

更に後藤さんは一昨年、昨年と国産紅茶グランプリを連破しました。
その事により、後藤さんは消費者の人気投票という国産紅茶グランプリにおいて、審査する人たちがどんな紅茶を好んでいるか、つまり、「どんな紅茶がグランプリを取りやすいか。」という情報を手に入れました。
もぅ、最強です。

今年の国産紅茶グランプリの最有力候補です。
完璧なディフェンディングチャンピョンであり、上位を狙う人達は後藤さんを超えるために参加することになります。

今年のグランプリも後藤さんに確定したと言って良い状況ですが、後藤さんを超える事が出来ないかと言えば、それは十分に有り得ます。
実は、後藤さんは2013年にとんでもなく美味しい紅茶を作っています。
それは、私が過去に経験した紅茶の中でも最高クラスの美味しい紅茶でした。
2012年に実家の茶業を手伝い始めて翌年、偶然に近い状態で出来たその紅茶。それに近づけたくて、それを再現したくて後藤さんは努力を続けているのです。
決してそれだけではないと思いますが、そのレベルの紅茶が出来た時には後藤さんを超えてグランプリに輝く事が出来ます。

それが後藤さんが製茶経験1年で作り出したように、まだ、国産紅茶グランプリに参加したことが無い、紅茶を作り始めて間もない茶師かもしれません。
そんな若い茶師が、後藤さんを超えるような茶師が出てくることを期待しています。

それにしても、昨年の国産紅茶グランプリ、準グランプリの受賞者は、3人ともに30歳前後の若手。これからの日本の茶業に期待が持てた国産紅茶グランプリでした。

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