紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

イギリス人は濃い紅茶好き???

      2015/09/25

アマゾンで見つけた1890年のアフタヌーンティーの本が届きました。
『FIVE O’-CLOCK TEA』
「FIVE O’-CLOCK TEA」というのは、アフタヌーンティーの昔の呼び名です。
つまりこれは古いアフタヌーンティーの本です。

開いてみるとアフリカのコロニアル:植民地で書かれた物のようです。
アフリカのコロニアルというと、今の南アフリカのことでしょうか??

オンデマンド印刷が簡単にできるためか、今、海外では著作権が完全に切れた本を復刻版で出版するのが流行っている?ようです。
この本もそんな一冊です。古い書籍がこうやって簡単に手に入るのは嬉しい限りです。

で、書いてあるのは殆どアフタヌーンティーのレシピのみ。もちろん紅茶の淹れ方が最初に書かれてます。次がコーヒーで、その次がココア。
「えっ!? アフタヌーンティーのレシピ本じゃ無いの?」と思われるかも知れませんが、アフタヌーンティーは基本的におもてなしのパーティーですからお客様がコーヒー好きならコーヒーをお出しするのは当たり前過ぎるくらい当たり前の話です。
ビバレッジ:飲み物の次はスイーツのレシピが殆どです。いつか忠実に再現してみたいですね。

でその最初に書かれた紅茶のレシピ。
「一人づつにティースプーン山盛りの茶葉ともう一杯の茶葉を入れて。」と、書かれています。
あの有名な紅茶の淹れ方のレシピですね。19世紀の本に書かれた紅茶のレシピ

あの淹れ方がいつ頃固まったのか興味が有りましたが、この頃には既に固まっていたようです。
というのは、私が持っている他のこの頃の原書ではこの淹れ方は書いてなくて、様々なレシピが載っています。という事で、あの淹れ方はまさにこの時期に固まったのような気もします。

ここで気を付けていてほしいのは、この、「一人に一杯。ポットのために一杯」というのはイギリス人の好きなミルクティーのレシピだと言うことを忘れないで欲しいのです。
この淹れ方をして殆どの人が、「渋い!」と思ったはずです。
この淹れ方はイギリス人の好きなミルクティーのための淹れ方ですから、当然ミルクに負けないようにストレート用より2倍くらい濃い紅茶の淹れ方であり、それをそのまま飲めば渋いのは当然なのです。

それが、「イギリス人は濃い紅茶好きだ。」という間違った伝説を生み出しました。(と、私は思ってます。)

ジョージ・オーウェルというイギリスの代表的な作家をご存知でしょうか?
20世紀初頭を生き46歳にして無くなったイギリスで最も著名な作家ジョージ・オーウェルは亡くなる少し前の1946年、ロンドン イブニングスタンダードという夕刊紙に「 “A Nice Cup of Tea一杯の美味しい紅茶” というエッセイを発表しています。
「イギリス人が紅茶好きだといっても、美味しい紅茶の淹れ方を書いたものが無いじゃないか。だから私はこれを書く。(意訳過ぎる要約)」と言って書かれたこのエッセイには、彼流の紅茶の淹れ方が書かれています。
「第四に、紅茶は濃いことが肝心。1リットル強はいるポットに縁すれすれまでいれるとしたら、茶さじ山盛り六杯が適量だろう。今のような配給時代には毎日そんなまねは出来ないけれども、一杯の濃い紅茶は二十杯の薄い紅茶にまさるというのが私の持論である。」
小野寺 健 訳 朔北社一杯のおいしい紅茶』より)

これを計算してみると、ティースプーンに山盛り紅茶の葉を載せると約3.5gとして、

約3.5g×6杯=約21g/1リットル となります。
リンアンの場合平均的にはストレートの場合 4g/350cc。ミルクティーは2倍の茶葉を使いますから、1リットルに換算すれば 4g×2/0.35=約23g/1リットル となります。
ほとんど同じと言うか、強いて言えばリンアンの方が濃いくらいです。

濃い紅茶好きとして有名な ジョージ・オーウェル でもこの濃さ。
イギリス人が濃い紅茶好きって、実は日本人の「ポットのための一杯」の淹れ方を勘違いして始まったことで、本当は日本人の方が濃い紅茶好きなのです。

以前、イギリスのご婦人によくお越しいただいていました。
彼女が頼む紅茶は決まってヌワラエリア。緑茶っぽい美味しさを持つヌワラエリアは決してミルクティー向きとは言えない紅茶です。
でも彼女はそこにたっぷりのミルクを入れて楽しんでいました。
それもいつも頼まれるのはミルクティー用に濃く淹れた紅茶ではなく、ストレート用に淹れた紅茶にです。
気になって聞いてみたことがあります。「美味しいですか。」と。
彼女はにこやかに、「美味しいです。」と答えてくれました。

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