紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

理系の紅茶学

   

6月26日 岐阜県現代陶芸美術館で、「理系の紅茶学」と題してワークショップを開催させていただきました。
これは岐阜県現代陶芸美術館が主催する 魅力発信事業の一環として、2016年5月21日(土)~2016年7月10日(日)に開催されている『セラミックス・ジャパン 陶磁器でたどる日本のモダン』の一環として企画されたワークショップです。
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岐阜県現代陶芸美術館は土岐市にある岐阜県立の美術館なのですが、車で駐車場に入ると入り口が見えるだけで、「どこに美術館が有るの?」という感じの美術館です。
でも、その入り口を入っていくと、トンネルになっていて、期待に胸を膨らませながら抜けるとそこに壮大な空間が広がっているのです。
セラミックパークという陶芸をメインとした施設の一部を使った美術館ですが、陶芸作品を中心に興味深い展示会を開催していて、私の大好きな筆頭クラスの美術館なのです。

そんな大好きな美術館からまさかのオファー!

「展示会のついでのイベントで、よく、パンフレットの片隅に記載されているワークショップだろう。」くらいの気持ちで気軽にお受けしたのですが....。

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まさかのまさかで、パンフレットの表紙にでかでかと名前が載ってる!
それも美術界の著名な方々と並んで美術とは何の関係もない私の名前が載ってます!

佐藤卓氏はデザイン関係の著作も多く、キシリトールガム、明治のおいしい牛乳などの製品デザインの他、NHKの番組ロゴ等も担当し、NHK Eテレの人気番組「デザイン あ」の全体の構成・総合指導も担当し、グッドデザイン賞の副審査委員長という、まさに日本のデザイン界を牽引しているような方。
その他の方々も美術界を代表するような人ばかり。

デザイン系の賞を何度も受賞している取引先の社長が思わず、「なんで堀田社長がミナペルホネンと一緒に並んでいるんですか!!!」と叫びだすような不釣り合いな出来事なのです。
正直、こんな事になるなら受けなければ良かったと後悔しました。(冷汗)

でも、ここまで来てしまったら他の方々に恥をかかせないようにやるしかありません。

しっかり、いや、前日徹夜してなんとか準備して皆様をお迎えした13:30。

始めにお出ししたウェルカムティーは今年輸入したばかりのスリランカ ディンブラのマタカレー茶園の紅茶です。
最も紅茶らしいディンブラの紅茶をしっかり淹れ、「淹れたての紅茶は美味しいでしょう。」の次の言葉は....。

「この紅茶、1週間前に淹れたばかりの紅茶です。」

ここから抽出後の紅茶の劣化の話が始まります。
どういう状態だと劣化が早く、どうすれば劣化を遅らせることができるのか?
それをまず初めに味覚で体験していただいて、あとから理論で納得していただく。
そんなお話から始めました。

次に体験していただいたのは官能評価学会でも規定されている審査方法の一つの「3点比較法」。
これは2種類の紅茶を3つに入れて審査していただきます。
当然2つが同じ紅茶で1つが違う紅茶になります。その違う紅茶を当ててもらうのです。

2種類の紅茶の味がはっきりと違えば全員が正解するはずです。そして違いが全くなければ1/3の人が正解するはずです。
つまり、正解率によってその味の差を数値化できるのが「3点比較法」なのです。

ここで比較してもらったのは、実は9年間保存試験をしている紅茶。つまり9年前の紅茶です。
ひとつは真空包装をして冷凍保存しておいた紅茶。もう一つは常温で開封状態で保存してあった紅茶です。
常温で開封してあったといっても、光の劣化や周囲の匂いからは隔離しておかないと何の試験をしているか分からなくなりますので、内部をアルミ蒸着された大型の紙製ドラムに密閉して保存してあったものです。
密閉と言っても十分な空間が有りますので、茶葉の酸化に必要な酸素はたっぷり入っています。

理系の紅茶学01

結果は2/3ほどの人が正解しました。
つまり、「ある程度は分かる人がいるけれど、その味の差は分からない人もいる。」といった程度の差しかありません。
もちろん、美味しく飲めています。^^

さらに体験していただいたのは10日間、光にさらしておいた紅茶。
透明の袋に入れた紅茶と、それを更に赤セロファン、青セロファン、緑セロファン、そしてアルミ箔で包んだ紅茶。
これはアルミ箔で遮光した紅茶以外は美味しくないのが明らかですから、官能審査も何もなく、「いかに不味いか!」を体験していただくだけのテイスティングです。
光の色により若干の差は有っても、どんな色でも光による劣化が激しいのは明らかです。

理系の紅茶学02

9年間保存試験をした紅茶と、光で劣化した紅茶を飲んでいただいて理解していただいたのは、「紅茶は臭気と光から隔離すれば、実は非常に長く保存できるものだ。」という事です。

紅茶の発酵とは、実は緑茶のタンニンが酸化重合して紅茶の成分を作り出す反応です。
早い話、緑茶のタンニンが酸化したものが紅茶であり、紅茶の場合茶葉の酸化は劣化ではないと言えます。
それが光が当たると急激に劣化してしまう。

この辺りが味覚的に体験していただけたのではないかと思います。

次に体験していただいたのは、「本当に酸素は紅茶をまろやかにしているのか?」という疑問。

これは沸かし続けて空気の抜けたお湯に酸素と二酸化炭素を吹き込み、「酸素が極端に多いお湯」と「二酸化炭素が極端に多いお湯」を作り出し、「沸かしたてのお湯」の3種類のお湯で紅茶を淹れて飲み比べをしてみます。

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二酸化炭素をたっぷり含んだお湯で淹れた紅茶は沸かしたてのお湯で淹れた紅茶のように美味しく飲むことができます。
が、酸素の多いお湯で淹れた紅茶は淹れたばかりの時には美味しいのですが、少し置いておくと凄く渋くなってしまうのです。
ある意味、しっかりしたボディーを作り出しますから、紅茶の旨味が凝縮したとも言えるのですが、とにかく渋い方向へ変わっていきます。

これがミルクティーにすると(今回はやっていませんが)、その渋みがミルクに負けない強いボディーとなって非常に美味しいミルクティーを楽しむことができます。
しかし、ストレートの場合、多くの人は「渋い」と思ってしまいます。
これがチャイなどの場合、高いところから何度もカップに移し替えて空気を混ぜ込んでいる理由ですね。
だからあれは、ミルクティー以外ではあまり行われません。

ここでの実験で体験していただきたかったのは、「酸素が紅茶を美味しくしているか?」ではなく、実は「空気の量によって紅茶の味はこんなに変わるんだ。」という体験です。
この後、コルカタのオークションの動画を見ていただき、オークションのバイヤーたちが「汲みたて沸かしたてのお湯」にこだわってテイスティングをしている話。
そしてジャンピングの言葉の元となったハックスレーさんの『Talking of Tea』の解説と、ハックスレーさんの実験の再現動画を見ていただき、「何故、汲みたて沸かしたてのお湯で淹れた紅茶が美味しいのか」の解説をさせていただきました。

綿密な、分単位のシナリオを作ってワークショップに臨んだのですが...。
「絶対時間が足りない!」と思って進行したせいか?
逆に時間が余ってしまい。^^;;

念のために用意しておいた、愛知県食品工業技術センターとの共同研究の「紅茶の抽出方法が官能特性に及ぼす影響」の解説まで進み、終了とさせていただきました。

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参加された皆さんにはなんとか喜んでいただけたようでほっとしています。

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