紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

紅茶は、茶園か?農園か?

   

最近、紅茶の茶園を「農園」と表記する例が非常に多くなってきました。
昔は「農園」という表記は殆ど無く、「茶園」という表記だったのですが。

でも、リンアンでは頑なに、「茶園」を使い続けています。

もちろん、紅茶を生産しているところは「農園」なのですから、「農園」という表記は間違いではありません。

しかし、紅茶の農園は自らの名称には「TEA ESTATE」、もしくは「TEA GARDEN」を付けているのです。
それでなければ「TEA PLANTATION」です。
自らを「TEA FARM:農園」と名乗っている事は殆ど有りません。(日本の茶農家が英語表記する場合には「TEA FARM」が良く見られます。)

であれば、紅茶の場合は、「茶園」と表記してあげるのが本来ではないかと思うのです。

これがコーヒーの場合は「COFFEE FARM」と名乗っている農園が多いのです。
ですからコーヒーの場合は「農園」と表記してあげるべきでしょう。

「TEA GARDEN」の直訳はそのまま「茶園」ですからよく理解できると思いますが、「TEA ESTATE」とは、どんな概念なのでしょう。

「ESTATE」を辞書で引いたり、翻訳ソフトで訳させると、「財産」と出てきます。
「REAL ESTATE」であれば、「不動産」となります。土地や建物などの動かせない財産の事ですね。

もちろんですが、「財産」とは所有物の事です。

土地を個人の所有物と認識したのはいつの事でしょうか?
分かり易く日本の例で言えば、元々律令制の元では均田制により中央政府が土地を支配し、民衆に田畑を耕作させていました。
それが奈良時代に農地を増やすため開墾地の所有を認めます。「荘園」です。

まさにそれが「ESTATE:財産」なのです。
その「ESTATE」は日本では「荘園」と呼ばれていたのです。

「荘」とか「園」とは、元々娯楽のための別荘や、周囲の山々を含めその庭の事だそうです。
そう理解すればアパートなどに、「○○荘」と名付けられたり、山岳地帯が「国定公園」に指定されたりするのがよくわかりますよね。

「ESTATE」を「荘園」と理解すれば茶園のシステムがよく理解出来ます。
「荘園」には、領主がいて、その領主が行政を含め、すべてを支配します。これが基本的な封建制度の始まりです。

イギリスに目を移せば、エドワード懺悔王(在位:1042年 – 1066年)の頃にはすでに貴族制度が出来始めていたようですが、貴族制度が確立したのは、ウィリアム1世(在位:1066年 – 1087年)によるのだそうです。
参考:世襲貴族 Wikipedia

貴族は領地を与えられ、その土地を支配し、そこから得られる収入で暮らしています。

話を茶園に戻せば、ほとんどの茶園はイギリス人が植民地の山野を切り開き、開墾し、茶の木を植え、人を住まわせ、学校や病院も作りその一帯を管理しました。
まさに「荘園」そのものであり、まさに「ESTATE」なのです。
そのシステムは、今現在はその殆どが会社組織となっていますが、茶園でのシステムは会社が園主となり、茶園マネージャーが領主役を務めているだけで、貴族社会の領地システムがほぼそのまま機能しています。

ダージリンのラングリーラングリオット茶園で茶園マネージャーのバクシー氏に聞いてみました。「TEA ESTATE と TEA GARDEN の違いはなんだ?」。
彼の答えはこうでした。「昔は茶園が行政も警察機構も全て担っていたから ESTATE を使っていたけど、今は違うから GARDEN を使う。」

まさに「昔は荘園だったから ESTATE を使ったけど、今は GARDEN だ。」という意味ではないでしょうか。

スリランカではまだ、「TEA ESTATE」を使う事も多いのですが、インドでは、「TEA GARDEN」が主流になってきています。

という事で、リンアンでは頑なに、「農園」ではなく、「茶園」という言葉を使っています。

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