紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

紅茶の抽出方法には国際規格が有ります。

   

紅茶の抽出方法には国際規格が有る事をご存知でしょうか。
国際規格が有ると言っても、家庭で紅茶を淹れる時の抽出方法に規格が有るわけではなく、紅茶の取引等における審査方法に基準が有るのです。

その規格はイギリスの規格が元になり、1980年にISO規格として制定された ISO-3103 という規格です。
このISO-3103という規格を購入しましたので、分かる範囲で、面白そうなところを解説したいと思います。

まず規格のタイトルは、
Tea — Preparation of liquor for use in sensory tests」となっています。

日本語にすると、
「茶-官能審査用液体の作成」となるようです。(日本規格協会)
ここで、「sensory tests」は日本語で「官能審査」になるのですが、一般的には単に、「審査」でもいいでしょう。
「Liquor」は一般的にはお酒、それも蒸留酒のことをさしますが、元々はliquid:リキッドの意味で液体の事です。
ここでは審査に使う紅茶の抽出液の事ですね。
かっこつけて言えば、「茶液」と書いた方がそれらしいかもしれません。
ともかく、このタイトルからも、紅茶の抽出方法の基準ではなく、あくまでも紅茶の審査に使う抽出方法の基準を規定したものだという事が分かります。

時々、「これが正しい紅茶の淹れ方だ。」という記事を見かけたりしますが、あくまでも審査に使う茶液の準備方法を規定したものであり、紅茶を楽しむ場合の正しい淹れ方では有りません。

この規格はそれまで慣習的に行われていた紅茶の審査方法をまとめたものとなっています。
それまで慣習的に行われていた審査方法はイギリス発祥のものに間違いはないと思いますが、国によって、またオークション会場によって様々に変化していました。
それをひとつの規格にまとめる作業は大変だったと思います。

例えばテイスティングカップは一つにまとめる事が出来ずに、300ccのタイプと150ccのタイプが規定されています。

実際にはこれ以外のタイプも有るのでしょうが、なんとかこのふたつにまとめる事が出来たようです。
その二つのテイスティングカップを比べてみました。


左が300ccのタイプで、右が150cc のタイプです。
上からの写真の方が大きさの違いが分かりやすいと思います。
実際に見比べてみると、その大きさにびっくりします。

日本で一般的に使われているのは150ccのタイプでしょう。
左の150ccのタイプはリンアンで販売しているテイスティングカップです。
欲しい方はこちらで購入できます。
http://liyn-an.jp/products/detail.php?product_id=279

左の300ccのテイスティングカップは、スリランカから輸入して時々テイスティングに使っているものです。スリランカノリタケの製品です。

規格には図入りで各部のサイズが公差まで記入されていますが、あくまで「examples:例」であり、この交差の範囲でなければならないというものでは有りません。

現実的に必要なのは注記として書かれたこの部分です。
the diameter of bowl is such that the pot and lid can rest inside to drain off the liquor , and the angle of the inside surface of the bowl is such as to allow the taster an uninterrupted view of the liquor without shadow.

ボウルの直径はポットとフタが中にセット出来て、茶液がちゃんと出るようになっていなければなりません。
写真のようにボウルにポットを傾けてセットでき、その状態で茶液がちゃんと出るような角度で傾いていなければならないのです。

抽出時間は、ISOの規格では6分間抽出になっていますが、実際は5分間抽出をしているところが多いような気がします。

茶葉の量は、茶液100ccに対して茶葉を2g と規定されています。
つまり、150ccのタイプの場合3g。300ccの場合、6g です。
しかし、お湯の量は若干控えめに入れられますから、これより少し少なくなります。
紅茶の品質の審査の場合は茶葉の量が多少変わっても大きな影響はありませんが、ブレンドする場合はより正確な計量が必要となります。
そうしないとブレンドする茶葉の比率が変わってしまいます。

細かいところでも結構興味深い事が書かれています。

使うお湯については、 Freshly Boilling water:新鮮な熱湯を使えと書かれていたり、水の硬度にも言及されていて、飲む所の水を使うべきだけれども、比較する場合は蒸留水がいいとかも書かれています。

写真のように抽出後の茶殻をふたに載せてポットの上において茶殻の香りをかいだりするのは、どこの国でもよく見かける風景なんですが、まさか、ISOにもそれが書かれているとは思いませんでした。
確かに蓋をひっくり返せば茶殻を載せるのに都合がいいのですが、ISOにまで記載されているとは!

もちろんですが、ミルクを入れた場合と、入れない場合の方法が書かれています。
でも、私の経験では、ほとんどの場合ミルク無しでテイスティングをします。
ミルクを入れたのはアッサムの茶園だけでした。
アッサムの紅茶の殆どはインド式ミルクティーのチャイの需要だから当然でしょうね。

テイスティングカップの大きさは2種類が規定されていて、どちらを使ってもいいのですが、通常輸入する紅茶を審査する時は150ccのタイプが活躍します。
300cのものが活躍するのは紅茶をブレンドする時です。

同じテイスティングでも、紅茶の審査を行って購入する紅茶を決める時と、紅茶をブレンドする時では事情が違うのです。

買う紅茶を選ぶ場合は、審査に必要な量はそれほど多くありません。
実際に味わうのはスプーンで1~2杯。
150ccでも十分すぎる量の茶液が出来ます。

ところがブレンドする場合はそうはいきません。

ブレンドする場合は、「求める紅茶を作るには、あの紅茶とあの紅茶とあの紅茶をこれくらいの比率でブレンドすれば出来るはず。」と予想を立ててブレンドしていきます。
私の場合、必ずベースとなる紅茶があり、それに香りを足す意味で他の紅茶をブレンドしていきます。

「ベースの紅茶をスプーンで3杯入れて、こちらを1杯、これを1杯。」といった感じでブレンドしていきます。
「この香りがもう少し欲しいなぁ。」と、2番目の紅茶を足したり、3番目を引いたりして調整していきます。
これを何回も、気に入るまで繰り返すのです。

すると、ベースになる紅茶がどんどん減っていってしまうのです。
150ccでは足りなくなってしまうんですね。

そんな時は、150ccのテイスティングカップで二つ、三つと同じ紅茶を抽出しておけば済むと言えば済むのですが、300ccのテイスティングカップが有れば便利です。

この規格の元を作ったのはイギリスの規格協会ですが、既に各国で行われていた審査方法の全てを網羅し、それらが反しないように基準の規格を作文するのはさぞかし大変な作業だったでしょう。
この規格の元の BS-6008 という規格を作り上げたイギリス規格協会は、その功績により、1999年にあのイグノーベル賞の文学賞を受賞しているという事は、紅茶のトリビアとして覚えておいてもいいかもしれません。
https://www.improbable.com/ig-about/winners/#ig1999

LITERATURE: The British Standards Institution for its six-page specification (BS-6008) of the proper way to make a cup of tea.

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