紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

紅茶は熱い方が美味しいわけでは無い!

      2018/12/16

「紅茶は熱い方が美味しい。」と思っていませんか?
多くの方が、「紅茶は熱い方が美味しい。」と思っています。
でも本当は、「紅茶は熱い方が美味しいのではない」のです。

紅茶は淹れたての熱い時が美味しく、冷めてくるにつれて美味しさが半減し、時間が経って冷めてくれば来るほど不味くなくなってきます。
その経験から、多くの人が、「紅茶は熱い方が美味しい。」と思っています。

もしそうなら、もし「紅茶は熱い方が美味しい。」のであれば、どうしてアイスティーは美味しいのでしょうか?
確かに「アイスティーは美味しい。」のです。
冷たくても、「アイスティーは美味しい。」のです。
もし、「紅茶は熱い方が美味しい。」のであれば、アイスティーはとんでもなく不味いはずです。美味しくないはずです。
でも、「アイスティーは美味しい。」のです。

それはどうしてなんでしょうか?

ひとつのグラフを見てください。

ホットの紅茶とアイスティーの温度変化

これは熱い紅茶とアイスティーの温度変化を疑似的に再現し、その温度変化を記録したグラフです。
温めたティーポットと、氷をたっぷり入れたティーポットに熱湯を注ぎ、その温度変化を8時間以上観察した記録です。
スマホの方は黒い画面にしか見えないでしょうから、拡大してみてください。
黄色い線が温めたティーポットの中のお湯の温度変化です。
赤い線がアイスティーを想定した氷に熱湯を注いだ時の温度変化です。
赤い線がいったん下がってからまた上がっているのは、氷で冷やされた水が室温まで上昇するためです。
これは12月の深夜に測定していますので、室温まで上がった温度が、明け方になるにつれてまた下がっていく様子も観察できます。

このふたつのグラフを紅茶だと想像してみてください。
グラフの右端になった時(8時間経った時)、黄色い線の紅茶と赤い線の紅茶のどちらが美味しいと思いますか?
長い間高温に晒されていた紅茶と、淹れたてを急冷して低い温度で保管した紅茶とどちらが美味しいか?

多くの方が、「低い温度で保管した紅茶の方が美味しいだろう。」と思うのではないでしょうか。

事実、このふたつの紅茶を飲み比べてみると、急冷して低い温度で保管した紅茶の方が圧倒的に美味しいのです。

ここで一つの科学法則をご紹介します。「アレニウスの法則」と呼ばれる化学変化の速度と温度に関する有名な法則です。

各係数によって化学変化の速度は温度に対して様々な違いを見せますが、一般的には「10℃ 2倍則 (10℃ 半減則)」として知られ、多くの化学変化は、その速度が10℃上がるごとに2倍速くなり、10℃下がるごとに、その変化の速度が半分に減るのです。

抽出後の紅茶の味の変化も、結局は何らかの化学変化が起こっているはずです。様々な化学変化が起こっているはずです。
その紅茶の味を劣化させる化学変化も、化学変化である以上、このアレニウスの法則に従って起こります。

つまり、抽出後の紅茶の味の劣化は、温度が高いほど早く進み、その温度が低いほど遅くなる。つまり、冷やせば冷やすほど紅茶の美味しさは長く楽しめるのです。

ここでもう一つのグラフを見ていただきましょう。

これは愛知県食品工業技術センターの中莖秀夫先生が紅茶のクリームダウンの研究で測定した紅茶の主な成分が時間と共にどのように抽出されるかを測定したデータです。
カフェインとテアフラビンは5分でほぼ飽和点に達し、テアルビジンは少し遅れて10分位で飽和します。
このグラフを見る限り、紅茶(このグラフはウバだそうです)は5分位でほぼ抽出が終わり、10分位で安定期に入ってくると言ってよさそうです。
当然、茶葉が違えばこのグラフも変わりますし、その他の条件によって大きく変わります。

当然ですが、紅茶の味の劣化は茶葉にお湯を注ぎ、紅茶の成分がお湯に溶け出した時から始まります。
しかし、抽出の速度に比べて十分に遅いため、美味しさの変化はこの成分の抽出のグラフに沿って起こると考えてもいいでしょう。
これは茶葉がずっと入っている状態ですが、これが茶葉を抜いたとするとどうなるでしょうか。
当然、茶葉を抜いた瞬間から紅茶の成分の抽出は止まります。
でも、紅茶の味の劣化の化学変化はずっと起こっているわけです。
つまり、茶葉を抜いた瞬間から、美味しさが増える事は無く、味の劣化だけが続きます。
これが淹れたての紅茶が美味しい理由です。
美味しいのは熱い紅茶ではなく、淹れたての紅茶なのです。

ここで最初の温度変化のグラフを見返してみましょう。
そしてアレニウスの法則を思い出してください。
どうなりますか?
アイスティーは茶葉を抜くと同時に氷で急激に温度が下がります。
この急激な温度低下によって、淹れたての紅茶の美味しさが保存されるのです。
これがアイスティーが美味しい理由です。

「冷めた紅茶」というのは長時間高温に晒された状態(味が劣化しやすいい状態)を通り抜けてきた紅茶ですが、アイスティーは冷ました(味が劣化しやすい状態を避けてきた)紅茶です。

つまり、冷めた紅茶は不味いのですが、冷ました紅茶は美味しいのです。

皆さんは会社や学校で、暖かく美味しい紅茶を飲みたくて保温水筒に熱い紅茶を入れて持って行った事は無いでしょうか。
そして、美味しい紅茶が不味くなっていた経験はないでしょうか。

これはアレニウスの法則の逆のパターンで説明が出来ます。
保温水筒に入れて持って行くという事は、紅茶の味の劣化が進みやすい状態を長く保つという事に他なりません。
保温水筒に入れておいて紅茶が不味いのは当たり前ですね。

会社で暖かい紅茶を飲みたい場合は、保温水筒に熱湯を入れ、ティーバッグを別に持って行きましょう。
お弁当を開く前に保温水筒にティーバッグを放り込めば、お弁当を食べ終わった頃には美味しい淹れたての紅茶が飲めますよ。

これまで説明してきたように、冷めた紅茶が不味いのも、保温水筒の紅茶が不味いのも、アイスティーが美味しいのも、すべてアレニウスの法則で説明が出来ます。

とは言っても、人は案外、香りで味を判断しています。
そしてその香りの成分(香気成分)は基本的に揮発性の成分です。
揮発性の成分ですから温度が高いほど揮発しやすく、香り高くなります。
そういう意味では、「紅茶は熱い方が美味しい。」も間違いでは無いのです。

という事が分かってくると、紅茶もいろいろと応用が効いてきます。

いつでも気軽に淹れたての紅茶が飲みたい貴方。
アイスティーを冷蔵庫に入れておきましょう。
冷蔵庫から出してレンジでチンすると、淹れたての美味しい紅茶に戻ります。

イベントで多くの方に紅茶を一度に出す事は無いでしょうか。
イベントでなくても、死ぬほど忙しいレストランのランチタイム。食後の紅茶を美味しく淹れたいけど、時間をかけて紅茶を淹れている余裕がない。
しかたがないので、美味しくないのは承知で紅茶を温めて出している。

そんな時には、茶葉を3倍使ってアイスティーを3倍の濃さで出しておきましょう。
非常に濃く、茶葉に濃い紅茶が残りやすいですから、紅茶の成分を最後まで出し切るリンアン流のアイスティーの淹れ方がお勧めです。
http://liyn-an.jp/user_data/howto/case02.php

カップを温めておき、この3倍の濃いアイスティーを 1/3 ほど入れ、熱湯で3倍に薄めます。
3倍の濃いアイスティーは激しくクリームダウンを起こし、クリーム成分が沈んでいますから、カップに注ぐ前に十分攪拌し、均一化しておいてください。
これで淹れての美味しい紅茶をお出しすることが出来ます。
もちろん普通のアイスティーを冷蔵庫で保存して電子レンジで温めてもいいのですが、カップ一杯分の紅茶を電子レンジで温めるのは、意外に時間がかかるものなのです。

この方法は、紅茶の卸先のカフェの何軒かで実際にやっていただいています。
その一軒に紅茶フェスティバルのボランティアスタッフと行った時、皆さん、「わざわざ淹れたての紅茶を出してくれたんだ。」と思っていました。
「実はこれ、作り置きの紅茶なんだよ。」というと、皆さんビックリ!
それくらい美味しい紅茶が手早く出来るのです。

アイスティーの作り置き、もちろん保存期間が短い方が美味しく飲むことが出来ます。
レストランやカフェの場合は、1~2日程度がいいでしょう。
でも、1週間や2週間くらいなら、十分美味しく飲めてしまうのが、淹れたてを急冷したアイスティーなのです。

アイスティーを急冷してもクリームダウンは起こります。
でも、淹れたての紅茶の味を長く保存する効果は、アイスティーだから出来るのです。
アイスティーで紅茶を急冷する本当の効果は、実はクリームダウンの防止ではなく、紅茶を美味しく飲むためだとも言えるのです。

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