紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

カフェインは紅茶が多いか、コーヒーの方が多いのか?

   

これはよく議論されている問題です。
「コーヒーにはカフェインが有るからって、実は紅茶のほうがカフェインは多いんだよ。」
「紅茶はカフェインは多いけど、タンニンやその他の成分で効き方が柔らかくなるからいいんだ。」とか聞いた事はありませんか?
時には「茶葉では紅茶のほうがカフェイン多いけど、使う量が違うから飲むときは紅茶のほうが少なくなるんだよ。」とか。

こういう事は調べずに議論してないで、ちゃんと調べればいいんです。
日本には文部科学省が出している「日本食品標準成分表」という公式の食品成分を記録したものが有るんですから。
手元に有る『四訂日本食品標準成分表』を開いてみましょう。

ほう、ちゃんと茶葉だけでなく抽出液、つまり飲み物になった紅茶のカフェイン量まで書いてありますね。立派です。これでコーヒーと比べればはっきりしますね。

コーヒーのカフェイン量が多いか? 紅茶のカフェインの方が多いのか?

カフェイン比較1

ちゃんと抽出液の項目を確認して調べます。
コーヒー抽出液 カフェイン0.04%、 紅茶抽出液 カフェイン0.05%

若干ですが紅茶のほうがカフェインが多いようです。四訂日本食品標準成分表では。

ま、念のため、五訂の日本食品標準成分表も見てみましょう。

単位が g に変わっていますが、食品100g に対しての量ですから、1gで1%。 0.03gでは、0.03%。
g をそのまま % に置き換えてみることが出来ます。

その、五訂日本食品標準成分表では、

カフェイン比較2コーヒー抽出液 カフェイン0.06g、 紅茶抽出液 カフェイン0.03g

・ ・ ・ ・ ・ ・   えっ!?

 

コーヒーのカフェイン量は、 0.05% → 0.06% と、まぁ測定誤差範囲だとしても、紅茶のカフェイン量は、 0.05% → 0.03% と半分近くまで減っています!!!

四訂 が公表されたのは、昭和57年:1982年。五訂 は、平成12年:2000年に公表されています。この18年の間に何があったのでしょう??

実はこの18年の間にインド、スリランカ、ケニアなどの主要紅茶生産国ではカフェインの少ない品種に植え替えが進み...   なんて事が有るはずも無く。^^;;

もう少し詳しく見てみましょう。
注目するのは抽出条件です。

カフェイン比較5
コーヒーは、四訂も五訂も 10gの豆を150mlの熱湯で抽出しています。抽出条件は同じです。
が紅茶はどうでしょう?
四訂では、 2.5gの茶葉を100ml で抽出してますが、五訂では、5g の茶葉を 360ml で抽出しています。
四訂の条件を五訂のお湯の量に換算すれば、 2.5g×3.6倍=9g。
つまり、四訂の抽出条件は五訂の 9/5=1.8倍の量の茶葉を使っている事になります。

であれば、0.05g/0.03g≒1.7 四訂では五訂の1.7倍ものカフェインを含むのは当たり前ですよね。

これは抽出した紅茶の濃さの問題です。

抽出された紅茶が濃ければカフェインが多いのは当たり前です。
コーヒーだって、レギュラーコーヒーと、エスプレッソとアメリカンじゃぁカフェインの量は全く違うはずです。

問題は、「この紅茶の濃さが一般的な紅茶の濃さかどうか?」ということになります。
前の記事でも書きましたがリンアンで淹れているストレート用の紅茶の平均的な紅茶の茶葉の量は、 約4g/350cc です。ですから五訂の 5g/350ml という抽出方法はストレート用の紅茶として妥当なところでしょう。
抽出時間の1.5~4分が、「はぁ?」というところは有りますが、一般的にティーバッグは1分半と書かれていたりします(ティーバッグでも最低3分は蒸らしたほうが美味しいのですが、飲める範囲にははいります)ので、こういう抽出条件になったのだと思います。

では四訂までの抽出条件は何だったのかといえば、きっと「カップのために一杯、ポットのために一杯」という、イギリス式のミルクティーの淹れ方を参考にしたのでしょう。
当時の紅茶の本には、「これはイギリス式のミルクティーに淹れ方です。」という注釈も無く、この淹れ方を書かれた本が多かったですから。

「ポットのための一杯」を誤解してしまった結果がこんなところにも影響を及ぼしていました。

かっては四訂の食品標準成分表の記述を元に、「実は紅茶のほうがカフェインが多い。」と書いていた全日本コーヒー協会のホームページでも、今は紅茶のほうが少ないことを明記しています。
全日本コーヒー協会 コーヒー図書館 カフェイン

今まで五訂を元に書いてきましたが、現在は「日本食品標準成分表2010」が最新となっています。
五訂の増補版として、成分項目を36項目から43項目に増やした『五訂増補日本食品標準成分表』が 平成17年(2005年)に出ています。そしてさらに成分項目を50項目に増やした『日本食品標準成分表2010』が 平成17年(2005年)に出て、それが最新版となっています。
さらにそれを一般の人が分かりやすいように、女子栄養大学の出版部から「食品成分表」として出版され、それは現在、『食品成分表2015』が最新版となっています。
本屋さんに並んでいるのは、この女子栄養大学が解説も付けて読みやすくしてくれているものですが、その元になっているのは「日本食品標準成分表2010」ですが、さらにその基本となっているのは五訂ということになります。

そしてその最新のデータは文部科学省が、「食品成分データベース」としてインターネット上で公開されていますので、いつでも簡単に調べることが出来ます。
http://fooddb.mext.go.jp/

ちなみに、四訂から五訂への変革では他にも大きく変わったものがあります。

例えば、ノンカロリー食品の代表格だったコンニャクも、今ははっきりカロリーが表記されています。
四訂までは人間が持っている酵素では分解できない栄養素はカロリーゼロとしていました。
しかし人間は腸内細菌をもっており、腸内細菌の中には人間が分解できない成分を分解してくれるものもいるのです。
で、分解後は人間が吸収出来てしまうものが有る。
ということで、そんな細菌を持っている人と、持っていない人では吸収効率が極端に違ってしまって、ほとんどエネルギーにならない人と、しっかりエネルギーに出来る人がいるわけです。
コンニャクじゃ、どうするかって、食品ごとに比率を決めて表示することになりました。
その代表格がコンニャクなんですね。
と言っても、カロリーは非常に少なく、いまだ、ダイエットの味方である事には変わりがないのですが。

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