紅茶の製法
2019/01/12
つい最近、大学で紅茶の講義をする事になりまして、紅茶の製法をまとめておく必要に迫られましたので、ついでにブログに書いてしまおうと。
紅茶の製法は、栽培までは置いておくとして摘採(茶摘み)から出荷までは以下のような工程になります。
摘採 →萎調→揉捻→発酵→乾燥→篩分け→テイスティング→包装出荷
栽培について簡単に書きます。
このブログを読むような方に説明は要らないと思いますが、基本的に緑茶も紅茶も、同じお茶の木の葉から作る事が出来ます。
製法が違うだけで、最初に加熱して酸化酵素を壊してて作るのが緑茶。加熱する前に揉捻をして組織を壊し、酸化酵素とタンニン(カテキン類)を出会わせ、お茶の世界で発酵と呼ぶ酸化重合反応を起こさせるのが紅茶の製法です。
ただ、同じお茶の葉から作れると書きましたが、実際には緑茶と紅茶では、茶の木の栽培方法が違ってきます。
緑茶、その中でも日本茶はカテキンの味重視ではなく、テアニンの旨味が重視されます。
そのテアニンを多くするためには窒素 N が必要ですから、大量の窒素系肥料を与えます。
ところが紅茶の場合はその窒素がえぐみというか、なんというか、美味しいとは思えない味になってしまうのです。
ですから、紅茶と緑茶(特に日本茶)では、栽培方法から全く違うのです。
という前提で、まずは茶摘み(摘採)がされます。
基本的には、「一芯二葉:いっしんいよう」と言って、ひとつの芯(Tip)と、その下の2枚の葉を摘みますが、要は柔らかければいいですから、柔らかければ3枚目、4枚目の葉も摘むことが有ります。
この辺りは生産量を優先させるか、品質を優先させるかで違うところです。
次に茶葉は、萎調槽に入れられ、「萎調:いちょう」されます。
これは基本的には、揉みやすくするため、茶葉を萎調する(しおらせる)工程です。
水分量を60~70%まで落とすと言われていますが、元の茶葉の水分量によって違いますし、狙っている紅茶の品質によっても水分減量は違ってきます。
この萎調工程は、一晩くらいかけて行われます。
萎調工程は基本的に揉みやすくするのが最大の目的ですが、この工程で生成される香気成分も多く、紅茶の品質を決めるうえで非常に重要な工程となります。
昔は棚に載せたり、網に載せたりして萎調させる事が多かったのですが、現在は萎調槽に入れ、下から風を送りながら萎調させる事が殆どです。そして途中で上下入れ替え、均一に萎調させます。
紅茶の場合は室内だけの萎調ですが、烏龍茶の場合は日光に当てて、紫外線の作用によって烏龍茶独特の香りを引き出しています。
したがって、紅茶の発酵を途中で止めても、決して烏龍茶にはなりません。
製茶工程をコントロールするのは茶園マネージャーの仕事で、茶園マネージャーは温度や湿度も記録しますが、萎調された茶葉を手で握りその水分量を感じ取り、鼻で香気成分の生成を確認し、萎調をコントロールします。
萎調が終わった茶葉は床のシュートに放り込まれます。
ほとんどの製茶工場は階層構造になっており、上の階に萎調槽を置き、下の階に揉捻機を置いて、萎調の終わった茶葉をシュートに入れると揉捻機に入るように設計されています。
ここで紅茶の発酵について簡単に触れておきます。
お茶の発酵は、本来、「発酵」と言ってはいけないレベルの化学反応です。お茶の発酵は微生物が全く関与していない反応だからです。
お茶の葉はその細胞の中の液胞の中にタンニン(カテキン類)を持っています。
そして茶葉の表面や葉脈などの堅いところに、そのタンニンを酸化させる酵素:酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ等)を持っています。
この酸化酵素がタンニンを酸化重合させて紅茶の成分であるテアフラビン(オレンジ色の成分)やテアルビジン(赤褐色の成分)を作り出します。この化学反応の事をお茶の世界では、「発酵」と呼んでいるのです。
酵素というものは基本的にはタンパク質の一種ですから、熱に弱く、加熱されるとその活性を失ってしまいます。
ですから緑茶は摘採後すぐに加熱し酸化酵素を壊して緑色のお茶になり、紅茶は加熱前に揉捻し、組織を壊し、酸化酵素とタンニンを出会わせてあげて発酵(酸化重合)を促進することによって、茶色いお茶になるのです。
同じ「揉捻」という言葉で、揉捻方法もほとんど同じなんですが、緑茶の揉捻はお湯が浸透しやすくするための揉捻で、紅茶の揉捻は発酵と呼んでる化学反応を促進するための揉捻で、その目的が全く違うのです。
揉捻機には基本的なところで、ローリングマシン、ロータバン、CTCマシンの三種類が使われています。
過去にはレッグカッター等も使われたそうですが、現在見かける事は有りません。
その揉捻機で仕上げるかによって茶葉の形状が大きく変わります。
ローリングマシンだけで仕上げればオーソドックス製法といい、葉の形状が残った茶葉になります。
ロータバンまで使えばセミオーソドックス製法といい、茶葉は細かく捩れ、引きちぎられたような茶葉になります。
CTCマシンで仕上げればCTC製法で、茶葉は繊維状まで崩され、丸まって顆粒状の茶葉となります。
因みにCTCは、Crash Tear Curl の略で、「潰し、引き千切り、丸まった」という意味ですが、そういう工程が別々に有るわけではなく、ヤスリ状のローラーを2本使うCTCマシンで揉捻すると、そういう形状の茶葉になるという事です。
お茶の発酵は組織が壊れれば起こりますから、茶葉を摘んだ瞬間から僅かに起こり始めます。
萎調の段階では攪拌などにより、若干、発酵が進みます。
そして揉捻によって組織が殆ど壊され、発酵と呼んでいる反応が急激に進み始めるのです。
そのお茶の世界で発酵と呼んでいる化学反応・酸化重合反応が進むのを待っているのが発酵工程です。
発酵も化学反応ですから、熱を発します。そしてその熱が溜まれば温度が上昇し、その事によって酸化酵素自身が破壊され発酵が止まってしまいます。
ですから、その温度コントロールは非常に重要となります。
スリランカやアッサムなどでは、床にタイルを貼って衛生を保ち、床に熱を逃がす例をよく見かけます。
大量生産させる工場ではベルトコンベア上で発酵させることも多く見かけます。
ダージリンなどでは発酵棚に茶葉を載せ、ファンで風を送りながら発酵させます。
日本では濡れた布をかけて湿度を保つ工夫をよく見かけます。
発酵工程の温度や湿度は、その狙っている味によって様々です。どれが正解という事でも有りません。
発酵工程が終わった茶葉は乾燥機に入れられ、その熱によって酸化酵素を壊し発酵が止められます。
どの段階で発酵を止めるかも、茶園マネージャーの指示によって決められます。
時々、「紅茶は完全発酵茶」と言われることが有るのですが、茶園マネージャーは「どこで発酵を止めるか?」を常に考えており、完全発酵(発酵が終わるまでほっておかれる事)は有りません。茶園マネージャーが市場の動向を見極めながら、発酵の度合いをコントロールして発酵を止めているのです。
発酵が止められた紅茶はそのまま乾燥機で水分量3%程度まで乾燥されます。
乾燥が終わった紅茶はソーティングマシンによってサイズ別に分けられます。
一般的なソーティングマシンは、穴の大きなメッシュが上で、だんだん穴が小さくなるふるいがたくさん重なった構造をしており、これを全体に揺すって紅茶をサイズ別に分けていきます。
写真はこの一般的なソーティングマシンですが、円形に振動して篩分けするソーティングマシン、風で飛ばしてサイズ分けするソーティングマシンなど、様々なソーティングマシンが存在します。
最近は茶葉ひとつひとつをカメラでとらえ、コンピューターでその色ごとに分類する色彩選別機も使われるようになりました。
因みに、この色彩選別機:カラーセパレーターは、京都の服部製作所が煎茶用に開発したものが元になっています。
その後、その味、香りを確認するためにテイスティングされ、グレードが付けられ、時にブレンドされてペーパーサックと呼ばれる紙袋に入れられて出荷されます。
昔はティーチェストと呼ばれる木箱が中心でしたが、現在は紙袋が中心で、一部でアルミ袋で密閉し段ボール箱に入れる方法が使われています。紙袋と言っても、内部はアルミ蒸着され、光だけは通さないように工夫されています。
この状態でオークションにかかったり、プライベートセールによって紅茶会社に販売され、紅茶会社によってさらにブレンドされたり、そのままパッケージングされて皆様のところに届くのです。