紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

紅茶とコーヒー

   

紅茶とコーヒー。
同じような飲物で比較されることが多いのですが、決定的な違いが有ります。

それは、コーヒー豆は「種子」であり、紅茶は「葉」であるという事。

種子と葉の大きな違いは、「種子は油脂を持っている。」という点です。
種は、何も無いところで、根を出し、芽を出し、葉を出し、水分を吸い、光合成をして太陽エネルギーを取り込むことが出来るようになるまで、自分の持っている栄養で育たなければなりません。
その栄養:エネルギーの多くは油脂という形で持っています。
種は油脂の塊と見る事も出来るのです。

だから食物油の殆どは種から搾ります。
ナタネ油、コーン油、ごま油、つばき油、。
例外はオリーブオイルで、これは種からではなく、実から搾ります。

つまり、コーヒー豆はコーヒーの木の「種」ですから多くの油脂を持っているのに比べ、お茶、紅茶は「葉」ですからごく僅かしか油脂を持っていません。

その事が紅茶とコーヒーの意外な違いに関係してくるのです。

まず、一番大きな違いは賞味期限の違いとなって現れます。

油脂の酸化は、ハッキリクッキリ、「劣化」です。

油脂は酸化すると過酸化物となり、さらに分解して脂肪酸を作り出します。
過酸化物の量は「過酸化物価:POV」、脂肪酸の量は「酸価:AV」と表示され、大きくなるほど劣化が進んでいる事になります。
そしてこの量が多い場合、食中毒を起こすことが有るため、食品衛生法でその量が規制されています。
酸価・過酸化物価に関する規定等

油脂の劣化はそれほどに明らかな劣化なのです。

コーヒー豆は「種」であり、油脂をたくさん持っているため賞味期限が短く、焙煎後は3ヶ月程度と言われています。
これは豆の状態での話で、挽いたコーヒーの粉の場合は7~10日間と言われます。
これも包装方法によって大きく変わり、真空包装されて未開封の場合、1~2年持つようです。

これに比べ、紅茶は日本紅茶協会の基準で、光を通さない包装の場合、製造後3年です。
この場合の製造は、製茶ではなく、商品を生産した時点からですので、製茶時から考えればもっと長い事になります。

紅茶は「発酵茶」と呼ばれますが、この「発酵」は、お酒の様な微生物発酵ではなく、お茶の葉が持つタンニン(カテキン類)が酸化重合してテアフラビン、テアルビジンという紅茶の成分を作り出す反応を言います。
荒っぽく言ってしまえば、「緑茶のタンニンが酸化したものが紅茶」なのであり、コーヒーの油脂の酸化とは全く違って、お茶の葉の酸化は、特に紅茶に限って言えば劣化ではなく、熟成として働く事が多いのです。

その為、紅茶の賞味期限は非常に長いのです。

一般に賞味期限は1.5倍ほどの期間の試験が行われます。
ですから日本紅茶協会は5年間の保存試験を行っています。
5年の保存試験を行って、賞味期限を3年として問題が無い事を確認しています。

実はリンアンは更に長い8年を超える保存試験を行って問題が無い事を確認していますので、5年の賞味期限を表示しても良いのですが、業界標準に合わせて製造後3年を表示しています。

という事で、「多くの油脂を持っている」「ほとんど油脂を持っていない。」という違いによって、賞味期限がこれほど大きく変わってくるのです。

「多くの油脂を持っている」「ほとんど油脂を持っていない。」という違いは賞味期限の違いだけではなく、抽出方法にも大きな影響を及ぼしています。

紅茶は茶葉をティーポットに入れ、熱湯を注いで蒸らしながら抽出します。

でも、一般的にコーヒーはこの抽出方法を使いません。

一部例外は有りますが、コーヒーの抽出方法は抽出されたコーヒーを下から抜く抽出方法です。
これは私だけの意見ですが、抽出液を下から抜くという事は、油脂分を上に残す抽出方法だという事では無いでしょうか。
油脂は軽いですから上に残ります。

コーヒー豆は大量の油脂を持っているのですが、抽出後のコーヒーには油脂が殆どありません。
これは抽出時に油脂を取り除いているという事です。

コーヒーは「種」、紅茶は「葉」。
その違いが賞味期限や抽出方法にも影響を及ぼしている。

面白いですね。

因みに、この違いがコーヒーでは様々な抽出方法を生み出し、マシンによる抽出の自動化に発展したのに対し、紅茶はティーポットで実に簡単においしい紅茶が抽出できるため、その他の抽出方法も生まれてこなかった。また、抽出マシンの開発・普及も進まなかったのかもしれません。

でもそろそろ、もっと美味しい紅茶の淹れ方が出てきてもいいですよね。

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