紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

Beef Tea

   

「Beef Tea」というものをご存知でしょうか?
イギリスの古いレシピ本には載っているはずです。
今は書かれていないレシピ本が多いかもしれません。

私がこれを見つけたのは、1816年にロンドンで出版された『New System of Domestic Cookery』という本です。
ちなみに私が持っているのは1977年にニューヨークで再版されたもの。

お茶の淹れ方の変遷を調べてみたくて買い集めた原書の中の一冊です。

『New System』なんて書かれていますが、あくまでもこの本が書かれた19世紀初めの『New System』です。
IT技術とは全く関係ありません。^^;;

そして、『Domestic Cookery』と書かれているように、イギリス国内の料理のレシピ本になります。
この本で、「TEA」の文字を手当たり次第に探していて見つけたのが「Beef Tea」でした。

実は「Beef Tea」というのは、療養食で、実は牛肉だけのスープの事なんです。
日本のお粥に相当する料理ですね。

お茶はどこにも使われません。

農耕民族の日本人は病気になると、お米を食べやすく、消化の良いようにたっぷりの水で炊き上げて栄養をつけるのですが、狩猟民族のイギリス人はそれをお肉でやって栄養をつけていたようです。

「SICK COOKERLY」 と書かれているように、19世紀のイギリスの病気の時の料理です。
レシピを見ると使われているのは薄くスライスした牛肉だけ。それををひたすら煮込んで塩で味を付けただけの料理です。
ネットで調べると牛肉以外を入れたレシピも有るようですが、この本に書かれた Beef Tea は、いたってシンプルな料理です。

この本のレシピで書かれているのは牛肉と塩だけで、「tea」とついているものの、お茶は全く使いません。
「Tea」という言葉は「食事」という意味でも使われます。この「Beef Tea」は、「Tea」という言葉を「食事」という意味で使った典型のような料理ですね。

日本でも、「ちょっとご飯食べに行こうか。」と言ってイタリア料理店にパスタを食べに行ったりします。
そこで注文するメニューにお米が使われていなくても、「ご飯」!
「ご飯」という言葉が、「食事」の意味で使われているからパスタを食べに行くときも「ご飯!」ですね。

この「Beef Tea」は、「Tea」という言葉が「ご飯」という言葉と同じように使われている事を示しています。

イギリスで紅茶が普及し始めたのは17世紀(1600年代)の事。
この本が書かれたのは1816年です。イギリスでお茶が飲まれるようになってから、150年しか経っていません。

しっかり調べたわけでは有りませんから、いつごろから「Tea」が「食事」の意味として使われだしたかは分かりませんが、少なくとも150年程後の19世紀初頭には、「Tea」という言葉は「食事」の意味でも使われるようになっていた。この事は非常に興味深い事実です。

そんな「Beef Tea」も、今はもう作る人も少なくなったようです。
イギリスでは朝ご飯は買ったもので済ませるのが当たり前の時代。療養食ももっとよく考えられたものが売られているからでしょうね。きっと。

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