ティーポットの中に、茶葉を残すべきか、抜くべきか。
紅茶専門店にはティーポットの中に茶葉を入れたまま出すお店と、茶葉を抜いてお客様にお出しする店があります。
茶葉を抜いて出すべきか、抜かずに出すべきか?
リンアンでは、抽出用とサービス用の二つのティーポットを使い、茶葉を抜いた状態でお客様にお出ししています。
そして多くの紅茶専門店で、そして喫茶店やレストランのほとんどは茶葉が入ったまま、ティーポットが出てきます。
イギリスのティールームでは、必ずと言っていいほど、茶葉が入ったままお客様のところにティーポットが出てきます。
これはどちらが正しいのでしょうか?
ちょっとお店から離れて考えてみましょう。
例えば皆さんの家でお客様に紅茶をお出しするときはどうでしょうか?
ティーポットに茶葉を入れ、熱湯を注ぎ、そのまま茶漉しとともにお客様にお出しするでしょうか? 絶対にしませんよね。
ティーポットの中に茶葉を入れ、茶漉しを付けてそのままお客様にお出しするのは、「勝手にやってください。」と言っているのと同じです。
お客様に対して非常に失礼な事で、絶対にやってはいけない事なのです。
では家庭では絶対にやってはいけない事を、なぜ紅茶専門店がするのでしょうか?
それはそのお店のコンセプトの問題なのです。
例えば私でも、家で紅茶を飲むときはティーポットの中には茶葉が入りっぱなしになっています。お店ではタイマーできちんと抽出時間を計って茶葉を抜いてサービス用のポットに移していますが、家の中ではそんな事は全くと言っていいほどしません。それでも美味しく飲めてしまいますから。
もちろん、ベストの抽出条件は有り、その時が最も美味しくなる時間です。
でも家では入れっぱなしにしています。
それは薄ければ薄くても美味しいし、濃ければ濃いなりに美味しいし、濃ければ薄めたりミルクティーにしたり、茶葉が入ったままになっていればいろんな楽しみ方が出来、紅茶のいろんな表情を楽しめるからなのです。
今までのほとんどの紅茶専門店は、紅茶好きの方が始めています。
そしてその方々はそうやって紅茶を飲んでいますし、お客様にそういう楽しみ方をしてほしいから茶葉を抜かずに、わざわざ茶葉を残したままでティーポットをお客様に出しているのです。
でも、私は茶の湯が高じて紅茶のお店を始めてしまいました。
リンアンはお茶でのおもてなしがしたくて紅茶のお店を始めたのです。リンアンが楽しんでほしいのは、紅茶のいろんな表情ではなく、そこに紅茶がある時間なのです。
一人でゆったり過ごす時間。お友達とたのしくおしゃべりをする時間。
そんなゆったりした時間を楽しんでほしいのです。
紅茶を美味しくいれるのはお店の責任。
お客様には、「もういいかな?」「濃くなりすぎていないかな?」なんて気を使わずに紅茶のある時間を楽しんでほしいのです。
リンアンは紅茶でのおもてなしをしたいのです。
だから茶葉を抜いてお出ししているのです。
つまりそれはどちらが正しいかではなく、お店が紅茶で何を楽しんでほしいかのコンセプトの問題なのです。
では、なぜ、イギリスのティールームでは茶葉が入ったまま紅茶が出てくるのでしょうか?
それは、「紅茶の席の母親役:マザーとは」にも書いたように、「イギリスの紅茶には、マザーの文化がある」からなのです。
イギリスの紅茶の基本アフタヌーンティです。そのアフタヌーンティーは基本的にお屋敷で行う社交のティーです。
お客様をお呼びして、その家の主人(マザー)が責任をもって紅茶を淹れます。
つまり、お客様は茶漉しどころか、ティーポットを触る事さえありません。
好みに合わせてミルクや砂糖まで調整されたティーカップの紅茶を受け取るだけなのです。
それをそのままティールームでやっているのがイギリスのティールームのアフタヌーンティーなのです。
だからティーポットの中に茶葉が入って出てきても、お客様に茶漉しを渡して、「勝手にやってください。」にはならないのです。
つまり、日本の紅茶専門店で茶葉が入ったままで紅茶が出てくるのと、イギリスのティールームで茶葉が入ったままで紅茶が出てくるのは、意味が全く違うのです。
その辺りを間違えてしまうととんでもないことになります。
リンアンを始めたころ、スタッフと一緒にホテルにアフタヌーンティーの体験に行ったことがあります。
そのホテルではラウンジの小さなテーブルでアフタヌーンティーを出していたのですが、一人一人にティーポットと茶漉しが出てきました。
小さなテーブルには乗り切らず、いや、ぎりぎり乗ったのですが楽しむ余裕など全くありません。
おもてなしの紅茶を出したいのか、それとも紅茶の変化を楽しんでほしいのか?
その辺りのコンセプトをしっかりして紅茶を出さないとおかしな事になってしまいます。
実は、リンアンのアフタヌーンティーは本当のアフタヌーンティーでは有りません。
本来であれば大きなティーポットがマザーのところに運ばれてきて、マザーがすべて取り仕切るべきです。
でも、日本にはそのマザーの文化が根付いていません。
そしてリンアンではそれよりもいろんな紅茶を楽しんでほしいと考えています。
その結果がリンアンでお出ししているアフタヌーンティーなのです。
ちなみに、イギリスでも本当に正式な、そして伝統的なアフタヌーンティーでは、ミルクティー用に濃くいれた紅茶を、キッチンで茶葉を抜いてマザーのところに持ってくるのが正式だと言われています。