紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ

紅茶専門店の店主が語る 紅茶の真実

5月はアイスティー月

      2024/07/11

今年から5月はアイスティー月。
ここで濁らない美味しいアイスティーの作り方をお教えしましょう。

その前に日本紅茶協会が今年から始めた「アイスティー月」の解説を少し。

11月1日は紅茶の日。
それを拡大し、11月は紅茶月としてキャンペーンをしているのですが、それをさらに拡大し、その半年前(後とも言えますが)を、「そろそろアイスティーの美味しい季節」として「アイスティー月」と決めました。という事で、今年から5月は「アイスティー月」。
日本紅茶協会のホームページでもキャンペーンが行われています。
http://www.tea-a.gr.jp/

この時期、正直、まだアイスティーという気分ではありません。
が、爆発的にアイスティーの注文が増えることが有るのもこの時期だったりします。

寒暖の差が激しい5月の連休の時期、急に暑くなることが有るんですね。
そんな時はもう、アイスティーの嵐です。

リンアンではやはりホットで紅茶を飲んでほしいという気持ちもあるのですが、お客様もそういう方が多く、8月の暑い時期でもホットで紅茶を頼まれる方が大半です。
が、この時期、急に暑くなった時だけは別ですね。
殆どのご注文がアイスティーとなります。
今年は暖冬だった反動か、そんな急激に暑くなった日もなく、アイスティーを頼まれる方が少ないのですが。

さて本題です。

アイスティーでの失敗のほとんどがクリームダウンと呼ばれる白濁して濁ってしまう現象です。
紅茶の中のタンニン(カテキン類)とカフェインが結合して分子が大きくなり、ついには光を屈折させるようになり透明度が下がるために濁ってしまう現象です。

まずここでよく間違われるのが「タンニンとカフェインが結晶してクリームダウンが起こる」と書かれている間違い。
これは科学用語をしっかり理解していない事からくる間違いで、このカフェインとタンニンの結合は、「結晶」と呼ぶのは間違いです。
結晶では有りません。
結晶とは、様々な物質が固化し、特定の形状を作ることで、多くの物質は分子や原子が特定のパターンを繰り返し配列するため、それが大きくなると特定の形状が目に見えて来るようになります。それが結晶です。
塩は四角い結晶になりますし、水は六角を基本にし、きれいな雪の結晶を作り出します。
でも、タンニンとカフェインの結合した物質の結晶の形は、誰も見た人がいません。
タンニンとカフェインの結合体はそういう特定のパターンは確認されておらず、一定の形状にはなりませんので、結晶とは言えません。
科学用語としては「重合」という言い方が良いと思いますが、「結合する」と表現しておくのが一般の方にも分かり易くて良いと思います。

そのカフェインとタンニンの結合から起こるクリームダウンですが、紅茶の本には、「急冷すればクリームダウンは起こらない。」と書かれています。
が、本当でしょうか?

「急冷したのに濁ってしまった。」とアイスティーに失敗してしまった方も多いはず。
実は、紅茶は急冷しても、それには関係なくアイスティーは濁ります。

そしてクリームダウンを起こし濁ってしまうとざらつき感を感じるようになり、美味しいと感じられなくなります。
本には、「クリームダウンしても味は同じ。」と書かれていることが多いのですが、同じ紅茶を使ってクリームダウンしたアイスティーとクリームダウンしていないアイスティーを作り分け、飲み比べをしてみるとその差は歴然とします。
やはりクリームダウンしない、クリアに透き通ったアイスティーの方が美味しいのです。

「急冷したのに濁ってしまった。」というアイスティーの失敗で多いのが、「急冷してクリームダウンは起こらないから安心して。」と冷蔵庫で冷やす失敗。
多くの場合、急冷してもその後に冷蔵庫で冷やせばクリームダウンが起こります。
「多くの場合」と書いたのは、茶葉によってクリームダウンが起こったり起こらなかったりするからです。

この失敗の原因は、「急冷」の意味を理解していないから起こる失敗です。
というか、ほとんどの紅茶の本には、「なぜ急冷すると良いのか」、「なぜ急冷しなければならないか」が書かれていません。
だから「急冷したのにクリームダウンしてしまった。」という失敗が起こります。

実はクリームダウンという現象は温度が下がるとすぐに起こる現象では有りません。
温度が下がるとゆっくり起こる現象なのです。

例えばゼラチンでゼリーを作る場合、冷蔵庫でゆっくり冷やして固めますよね。
温度が下がったからと言って、すぐには固まりませんよね。
ちょっと違いますが、まぁあんな感じの、すぐには起こらない現象だと思っていただければいいです。

カフェインとタンニンが結合してクリームダウンが起こるのには時間がかかるのです。

紅茶を冷やすとカフェインとタンニンが結合し始めます。
それが時間と共にどんどん増えていきます。その結合した分子は大きくなるため、絡まったりしてどんどん増え、どんどん成長していくのです。
そしてついには目に見えて光を屈折するようになり、濁って見えてくるのです。
これがクリームダウンという現象です。

つまり、クリームダウンが起こるためには時間がかかります。
もちろんカフェインとタンニンの結合ですから、カフェインとタンニンが多ければ濁って見えてくるのも早くなりますし、カフェインとタンニンが少なければ結合しても濁ったようには見えません。

ですから急冷しても、その後に冷蔵庫で時間をかければクリームダウンは起こるのです。(茶葉によってはタンニンが少なく冷蔵庫で冷やしても濁らないものもあります。)

「急冷」の本当の意味は、「紅茶はゆっくり冷やすとクリームダウンを起こすから、急冷してクリームダウンが起こる前に飲みましょう。」が正しい「急冷」の意味なのです。
一般的な紅茶の場合、アイスティーとして美味しい濃さで淹れれば、30分~2時間くらいでクリームダウンが起こります。
ですから、その前に飲んでしまえば全く問題がないのです。だから濃い紅茶を作って氷で急冷してアイスティーを作るのです。
冷蔵庫で冷やして作らないのは、そのためなのです。

もう一つ急冷で失敗するのは、「急冷」にとらわれ過ぎて「急冷しすぎる事による失敗」です。
アイスティーは急冷しすぎるとクリームダウンを起こします。

ちょっと表現に不適切なところが有りますが、一般の方に分かり易く表現すれば、「急冷しすぎるとクリームダウンを起こす」のです。

普通の方は「急冷すればクリームダウンが起こらない。」と言われれば、一刻も早く、「1秒でも早く冷やそう。」と思うのではないでしょうか?
これが失敗の原因です。

「1秒でも早く冷やそう。」と思えば、当然たくさんの氷を使いますよね。
そうするとよく冷えますよね。

ここで思い出してください。
紅茶は冷やすことでクリームダウンが起こるのです。

当然、冷やし過ぎればクリームダウンは起こりやすいのです。
さらに言えば、紅茶の本を書いている多くの方はプロの方、飲食業を行っている方々です。

今は飲食業ではなく、講師の方だったりする場合も多いですが、「急冷」が言われ始めたころはほとんどが飲食業の方だったでしょう。

カフェやレストランで使われている製氷機の氷の温度は0度です。
0度であれば溶けていくばかりで氷がくっつくことは有りません。

でも家庭の冷凍庫の温度は、マイナス18度。
これくらいの低温にしておかないとアイスクリームが溶けてしまいますから、家庭の冷凍庫はマイナス18度なのです。
そのマイナス18度の氷を、「1秒でも早く」と思ってたくさん入れれば、当然冷えすぎてクリームダウンを起こしやすくなります。

これも「急冷」にとらわれ過ぎてかえってクリームダウンを起こしている例です。
濁らない美味しいアイスティーを作るためのポイントの一つが、「冷やし過ぎない事」。
急冷にとらわれ、冷やし過ぎるのはクリームダウンの原因になります。

もう一つクリームダウンを起こさない方法はカフェインやタンニンの少ないアイスティーを作る事。

これは一つは茶葉の選定です。

アッサムは一般的にタンニンが多いため、アイスティーには向きません。
リンアンがお勧めしているのがディンブラです。
ディンブラも紅茶によってはクリームダウンを起こしますが、多くのディンブラはクリームダウンが少なく、なおかつ非常にアイスティーらしい美味しいアイスティーを作ることができます。

もう一つの方法は茶葉を少なくし、少ない代わりに長時間抽出をする方法です。
紅茶研究家として著名な磯淵毅氏が考案した「2度取り法」がその代表格でしょう。

で、それをさらに改良したのがリンアン流と呼ばれる(呼んでいるという表現の方が正しいですが)淹れ方です。
それはこちらに書かれていますので、ぜひご覧ください。
http://liyn-an.jp/user_data/howto/case02.php#case02

私の知る限り、もっとも確実に美味しいアイスティーを作る方法です。
この淹れ方では、小さなティーポットで作り、ティーポットに残った茶葉に何度もお湯を注ぎ、紅茶の成分を殆ど出し切ります。
その事によって、茶葉が少なくても味もしっかり出せますし、いつも一定の美味しさのアイスティーを作ることができます。

「アッサムはアイスティーには向かない。」と書いたのですが、実はアッサムのアイスティーは凄く、いや、凄くどころではなく、最高に美味しいのです。
最高に美味しいアイスティーが出来るにも関わらず、クリームダウンが起こってしまうため、美味しいのだけれどもアイスティーにはできないのがアッサム。

だったら、アイスティーにできるアッサムのブレンドを作ってしまえ!
アイスティーにしても濁らないアッサムのブレンドを作ってしまえ!

と作ったのが、ブレンディッツドアッサム2204 というブレンドです。
https://liyn-an.jp/products/detail.php?product_id=339

アッサムなのに何故クリームダウンが起きないのか?

それはこの 2204 というブレンドが、ファーストフラッシュだから。
冬から目覚めた春のお茶の葉は、まだタンニンの生成量が少ないのです。
タンニンが少なければ、タンニンとカフェインが結合したクリームの成分も少なくなります。
だからアッサムなのに濁りにくい、クリームダウンを起こしにくいアイスティーが出来るのです。

この夏は是非、アッサムで、美味しい未知のアイスティーの世界へ行ってみましょう。

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